ブログ対談:ワタミのキーパーソンに聞くプロジェクト成功の秘訣 -第1回 ビジネスデータのリエンジニアリング

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January 26, 2022担当 ルミ 小杉


3回にわたるブログ対談にて、ワタミ株式会社のIT戦略本部 部長 高井 直之氏に、インフォアジャパン プロフェッショナルサービス コンサルティングプラクティス マネージャーの石川 光幸が、SCMプロジェクト成功の秘訣について、お話を伺います(以下敬称略)。第1回は、ビジネスデータのリエンジニアリングについてです。

石川:
ワタミ様は、2018年にSCM(Supply Chain Management)プロジェクトがスタートし、2019年10月にオンスケジュール&オンバジェットで本番稼働されました。1年4カ月という短い期間で一番目の工場を稼働し、その後11工場への展開も達成しました。ぜひその成功となった1つの要因である、「ビジネスデータのリエンジニアリング」について、本日はお話をお聞きしたいと思います。というのもERPを導入される企業の多くがビジネスプロセスを変更することはできても、ビジネスデータの見直しには至れないことがあります。
私はデータ統合を難しくさせる要因として、
①データが業務を横断する
②データがシステムを横断する
③過去データをどのように扱う
か、といったことがあるからだと思っています。
以前のワタミ様ではデータの管理が難しい状況でした。そもそもデータが散在していた背景を教えていただけますでしょうか?

高井:ワタミは居酒屋から始め手作り厨房(セントラルキッチン)宅食(日替わり弁当)といったビジネスイノベーションを繰り返す中で、複数システム、複数コードといった統合しないシステムになった背景があります。場合によっては工場ごとに異なる機能のシステムになっていました。単一業態のシステムなのに、違う業態をマスターデータ管理しようと進めていたので、バラバラのコード体系となっていたのです。
例えば、同じキャベツなのに、複数のコードを持っていて、なおかつ、工場と連携した際に工場側のコードに変換されて管理されていました。よって、品番だけ見ても全く理解することができない状態でした。

IT戦略本部 部長 髙井 直之氏 ワタミに勤務して30年。 居酒屋店長を経て、本社勤務にいたる。色々な部署を経て、ワタミのシステム構成やビジネスプロセスを熟知。直近で仕入部長経験があり、マスターデータ管理なども行った経験がある。


石川:
それは大変でしたね。原価の管理も大変ですし、分析もスムーズにできなかったわけですね。

高井:そうでなんです。コード体系が複雑すぎてシステムで分析することができず、Excelなどで人がシステムの外で対応していました。完全に属人化したオペレーションになっていました。

石川:そんな中、インフォアのクラウドERP、CloudSuite Food & Beverageの導入を決められました。初めに機能要件を確認され、自社ビジネスプロセスにどのようにフィットするかを確認されたと思いますが、ビジネスデータの方はどのように確認されていったのでしょうか?

高井:当然新しいシステムを入れるということはビジネスデータを見直すチャンスです。しかし、今までの複雑なコード体系をどうやって集約していくのかは、私1人では決められるものではありませんので、先ずはインフォア社に、ERPの品番、仕入先、顧客コード、BOMなどのマスターデータや属性などのコードのあるべき姿をしっかりとレクチャーしていただきました。

石川:そうでしたよね。高井さんがご自分のノートにコードを書いてシステム間のコードマッピングなどされていましたね。では、実際にシステム間で同品異コードとなっているデータをデータエンジニアリングに取り掛かろうとした際、インフォアを含めシステムごとに異なるベンダーをどのようにまとめられたのでしょうか?

高井:色々なベンダーさんがいたとしても、ベンダーさんが自分の担当するシステムだけを考えると失敗しますので、インフォアさんからレクチャーを受けたマスターデータのあるべき姿をベースにした我々ワタミがありたい姿のデータを常に周りに共有していきました。

石川:インフォアを含めて関与する4社のベンダーと常に定期的なミーティングを設けて、マッピングなどの情報を共有していましたね。これは「マルチベンダー管理」と呼ばれる本当に難しいことなのですが、高井さんは自然にうまく管理されていましたと思います。その秘訣・コツについては、ぜひ次回のブログ対談でお話を伺いたいと思います。
さて、データの集約、コード体系の話に戻ります。データ統合には多くの部署の協力が必要になると思いますが、高井さんは、どのようにして関係部署に新しいコード体系を納得いただいたのでしょうか?

高井:ワタミではBPO(Business Process Owner)をはじめとする、社内体制がしっかりと確立され、関係部門が深く関わってくれたおかげで、うまく進められたと思います。

石川:振り返ってみると、当時のプロジェクトオーナーの方が、「ワタミのデータの持ち方は普通ではない」、「世の中の普通にしていく」と大号令をかけていたのを覚えています。実際に内部の調整・対応を行っていたのは高井さんでした。高井さんが他部署への説明用に現行マスターデータを名寄されていたのを覚えています。

高井:そうです。非常に大変な作業でしたが、当時これは絶対乗り越えないといけない壁だと思っていましたし、「やり切る!」という決意でした。いきなり100点満点は目指していませんでした。一回作ってみて、不具合がでたら、直しながら進めようと思っていました。とにかく、取り掛かることが重要でしたし、決意がないと進まなかったと思います。

石川:思い描いてきたことを形にするには相応の覚悟が必要ということですね。最初に、どの部署との調整を行ったのですか?

高井:原材料のマスター管理チームですね。今の仕入部になります。

石川:データの源流である製品企画ではなく、仕入部だったということですね。それはなぜですか?

高井:スタートが原材料ですからね。企画時の原材料/品番は何でもよくて、実際に商品化(確定)される際のコードが大事なのです。よって、「このコード体系でやりましょう」と仕入部と握ることが大事でした。

石川:製品企画で作成したPLMデータとERPがほぼリアルタイムで連携することの第一弾が達成できるようになったわけですね。要は、eBOMからmBOMに連携されていった感じですよね。
次に中間品や製品についてはいかがですか?

高井:
それは単に連番としました。コード自体に意味を持たせないようにしたわけです。これは以前のシステムでは、コード自体に意味を持たせていたので、色々と大変でした。ERPの専門家でもあるインフォアさんのご意見を尊重して、決めていきました。

石川:全桁を数字にしましたね。 桁を短くされたので入力もシンプルになったと思います。CloudSuite Food & Beverage の基盤ERPであるM3はそもそも属性の分類コードがたくさん持てるので、品番の意味はそこで管理すべきですよね。品番そのものに属性を持たせる意味がないです。属性もビジネス環境の変化によって変わることにもありますから、属性で持っていれば変更できるということです。こういう説明をしてすぐにご理解いただけたというのが、ワタミ様の素晴らしい点であります。あとは工程のコードがあるかと思います。どのように工程コードも統合されましたか?

高井:今までのシステムでは工程管理はしていませんでした。そのため、原価管理もExcelで行っていました。しかし、CloudSuite Food & Beverageでは工程も管理できるようになりましたので、原価管理もしっかりでき、本来やりたかったことが達成できました。これは現場の人も納得しています。それと、工場ごとに工程や作業時間が微妙に異なるのですが、それらのBOMメンテナンスは現場に任せることができました。

石川:複数仕入先コードの問題もありましたよね?

高井:そうです。これは発注先が違う、同じ会社であっても発注する営業所別に仕入先コードを登録していたため、同じ仕入先でも複数のコードが存在していました。 ここはまさに改善を入れている最中です。

石川:店舗コードの方はいかがでしたか?

高井:ここだけは他システムをM3側に寄せられなかったので、M3側の変換コード機能を使って設定しました。

石川:今回のERP導入で、データの統合・集約の観点から、高井さんの構想に対して、どの程度達成されたとお感じですか?またどんな効果が起きましたでしょうか?

高井:当初からM3のコード体系をベースに置く、と決めて実施したので、かなり達成できたと思います。その効果としては、今までシステムの制約でマスターが雪だるま式に増えていましたが、品番が統一できたお陰で20%から30%のデータを減らせたと思います。それと何よりも活用できる価値のあるデータになり、データ分析がしやすくなりました。
また属性で管理することによって、使い方、管理がしやすくなりました。以前は、データ集めに9、分析に1の時間を要していましたが、今では1の時間で集められ、9の時間を分析にあてられるようになっています。

石川:現在、会計の領域を導入されていますが、こちらでもコード体系などの統合があるかと思いますが、いかがでしょうか?

高井:コストセンター、勘定科目など、旧システムのコード体系をわかりやすい形に変革していきたいと思っています。約30社の勘定科目を統合していく形になります。勘定科目に持たせていた意味もありましたが、今回から会計セグメントの方に意味を持たせることにしています。これによって多角分析もできるようにしていきたいと思っています。

石川:最後に、データ移行についてエピソードをお聞かせください。

高井:今回ワタミプロジェクトでは、トランザクションデータの移行がありませんでした。マスター登録はRPAを採用しました。本稼働リスクを減らすために発注残データをのこさないようにしました。これには現場の理解が必要で、現場の方々からの協力を得られたところが大きかったです。また、並行稼働がちゃんと計画できたのがよかったです。並行稼動は現場に負担がかかるので、プロジェクト側の割り切り・評価ポイントを決めました。
1つの成功要因としては、次に稼働する工場からユーザが応援にきて、事前に本番稼働準備を経験することで、知識移転をしたことだと思います。それと、データ移行時にこんなことがありました。登録したデータの修正が1万件あることが発覚した時のことです。1万件のデータ登録に皆意気消沈していたのですが、メンバーを4チーム(1チーム3人)に分けて各チーム2,500件くらいに割り当て、入力する人、入力したデータをチェックする人を決め、どのチームが一番早く終えられるかを競うようにして楽しんだのです。結果1時間ほどで完了することができました。普通このようなことがあると、「誰の責任?」、「データ登録のためのプログラム作成は?」などの話が上がるものですが、インフォアのアイデアで、全員が前向きに取り組め、「One Team」になれた瞬間でした。

石川:そういうこともありましたね。M3は入力を簡素化する機能があるので、すぐに対応できると思って発案したのですが、それにしても皆さんの逆境でも前向きな姿勢なのには、学ぶことが多くありました。統一された価値のあるデータに変革することができたワタミ様、BIであるInfor Birstを活用され、これからもデータドリブン経営に拍車がかかっていくと思います。
ぜひこれからもご経験をお聞かせください。本日は貴重なお話をありがとうございました。

高井氏とインフォア 石川(右)


ワタミ株式会社

ワタミグループは1984年に創業、「地球上で一番たくさんのありがとうを集めるグループになろう」という理念のもと、外食・宅食・農業・環境などの事業を展開しています。これらの事業を通じて持続可能な「循環型6次産業モデル」を構築し、環境負荷を低減するRE100宣言、再生可能エネルギー事業にも取り組んでいます。

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